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 僕は春の嵐のような暗闇で中々眠れず、メッセンジャーの出る番組を見ている最中....。玄関の外で子猫の鳴き声がする。以前の僕ならすぐにドアを開けてミルクを飲ませるのに思考にストップが掛かる。あと10日もすれば早朝に家を出る。もしもその子猫がずっと玄関の前に居続けたら?近隣の迷惑になる。家に入れても鳴き声はどうも出来ない。僕は心を鬼にして、子猫が諦めて僕のドアの前からいなくなるのを伺いつつ待った。暫くして鳴き声は春の嵐の中に消えて行った。これまでの僕じゃないことは子猫に伝わっていたと思う。心にとどめておこうと僕は記憶の遺伝子に封印を組み込む。子猫が一ヶ月ぶりに僕を訪ねて来たことは承知だった。その期間どんなに僕に待ち焦がれていたのか、そこも理解出来た。かくあるすべてを見越しながら、僕は子猫を切ったのだ。