イエローダイヤ・マンy654 僕は時津〔とぎつ〕出身の若者と話していて彼の言葉にピンとくる。胸騒ぎがしたのだ。彼はこう言った。長与や時津って無駄にパンやが多いっすよね~~って。無駄にという言葉に封じ込められている愛を見たと思う。普通なら、無駄という言葉はエキセントリックで排除を意味する。それなのに無駄に多いっていう青年の言葉には過分の愛が感じられて日本語の深みを発見する。僕はそういった言い方になぜ、若者が到達したかがまだわからず、質問する。なぜ、無駄にっていう言い方なの?って。犬も歩けば棒にあたるっていう位パン屋が多いっす。ほおおおお、僕はそのひとつを紹介してもらい一本購入する。600円のメイプルラウンドだ。家に帰宅して一気にかぶりつく。何という天国の蜂蜜の味。しかも二日間かけてたいらげるのに丁度いい大きさ重さだったのだ。ラウンドという名前に僕は一瞬戸惑う。僕達の考えではラウンドは平らな円形ではなかったか?と。しかしそれならホールか?これは円筒の形のパンだ。そしてここにも芸術を超える何かがあることに目覚める。この覚醒こそは時津の青年が呼び込んだ快挙だろう。無駄に・・・が多いは明らかに愛の籠った表現だ。そしてそれをパンでじかに味わった僕こそが幸せ者だろう。