エメラルド・ウーマン《深窓の令嬢ダブリュー編》〔83〕新越谷ヴァリエのビルの飲食街で里子はびっくりします。どこからか生演奏が聞こえて来るのです。おトイレを出てその音響がどこから始まっているかを調べようとします。しかしそれを突き止めることは出来ず、自分の席に戻るのです。そじ坊が気に入ってここからそれが見えることが展開を優しくしていたのです。ホームで電車を待つ人々は、どんな一日を今日送って行くのだろう。それぞれの人生のその物語に思いを馳せると、心が温かいもので充満します。しかしネカフェにいる人々と袂を分かとうとはしていないのです。ここに個人の律儀と流儀が宿っていると判別するのです。もしもこのネカフェに居住性が半永久的に約束されたとしても、ここで自分の生活を他者と分かつことはない。自分の凝り固まった思想が嫌でした。他者とむやみやたらに関わることを恐れる自分は、嫌悪の対象というより、ごくごく自然で当たり前なのでは?と突如、思い直すのです。私がどんなに逆立ちしてもあの人になれないように、個人の枠組みは生活実態に反映されて日々刻々を刻んで久しい。それなら何時になったら、素晴らしい人との出会いはあるのだろう?かけがいのない人との出会いはあるのだろう?答えは出ないまま、うどんの汁をすすっていたのです。