ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔247〕選挙の達人T氏は私達のもとをすぐさま去る事は全く考えてはいなかったようで、実際私も岩永よしくに先生の応援のアルバイトを貰いウグイス嬢として票田に赴くのです。彼は県会議員の選挙の応援を私にも経験させて将来、何か自分の顔で就職を世話出来ないかを模索していたようで、乙女心にも有難いことだなあって私は義理人情に厚い彼の性格を信じ、正しく父も、教え子の彼を尊敬しました。惨敗して結果は報われなくとも、すがすがしい選挙の後の失望感。これを悲劇と呼ぶには極端過ぎて、あとちょっとの差異で敗れてなかったことがせいせいする編集後記を炙り出していたのです。父の部屋に絵画が飾られそれって、誰にもらったの?って尋ねると、安くで売ってくれたんだよ?って父は打ち明けてくれる。T氏が絵画を貿易で扱っていたことを知るのです。無名の作家でしょうか、そんなに高い値段で父は買い取った訳ではないものの、これはT氏の置き土産であるように思えてならなかったのです。選挙と言う厳しい試練をくぐり抜けて、私たち父と娘には、望郷のようなものも芽生えていたのです。誰を信じて誰を信じなかった?というよりもこの戦いが全力を出して敗れたものだっただけに得体の知れない爽快感もあったのです。