ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔238〕店を出てさあ、道路を渡ろうかとする時に、その道端に座っている人がいて驚きます。道路と歩道には段差もあってしかしその段差を椅子にしてチョコンと座っている。誰もびっくりしない夜の界隈のひと幕ですが、それが前夫だったゆえに、ようちゃんは、ギクっときます。まさか、待ち伏せ??心を鬼にして無言で立ち去ろうとすると、今終わったとね??って声を掛けてくるのです。ええ、お疲れ様!!ってこっちから笑顔を作って立ち去ろうとして、またもやギク~~って稲妻のような言葉が耳に木霊するのです。この光景を忘れるな!!道端に座っているこの男の姿をもう一回人生で目撃することになるぞ!!と。ようちゃんはその場を立ち去って、一人の時間になって考えるのです。どうしてあのような場面でその言葉が耳に興っていたか、その時は結論付けることは出来ず、単なる走馬灯のような思索の行に違いないって、深く捉えることにはならなかったんですが、四十二歳で自分の家を建ててその道端に彼が座っているのを見た時に、言葉が成就したことを知るのです。道端に座って、前妻の新居を見に来たのでしょうか。大工仲間の風の噂を耳にしたのかもしれません。今でこそ、オムニセブンは有名ですが、その頃はオムニバスという言葉も常用域ではなかったのです。