サファイア・マン《緻密な男編》〔172〕西暦1990年に入ってようちゃんは自分の意識を統一します。どんな過程で銀行員の妻になったかは別として、世の中を大繁盛に導くような位置をみずから奪取することを念頭に進むのです。その時は誰も想像だにしていません。バブルが崩壊するなんて。しかしそういう憂き目が、人や社会を成長させてしまうことを、時間によって知りうる立場にあったことが幸いで、運も加算していたのでしょう。誰もがようちゃんの生き方を見て、ご主人に復讐したかったのでは?と思うかもしれませんがそれは勘違いです。ようちゃんは常に時代の十年後を見据えていたのです。当時隣の家が出前レストラン経営していた関係上、多くの出前を注文して、それを二人ひと組で子供達に食べさせていたんですが、使い終わった食器をマンションの外に出すことに躊躇があって、衛生上だけではなく、私が拘ったのは出前を取ったことがばればれになることが嫌だったのです。ようちゃんの場合はお隣が出勤の際に手早く引き取ってくれはしますが、もしも遠い飯店ならどうなるでしょう。実は妻の自由度ランキングはこの出前にあって、自由にそれを注文して食べることが出来る頻度合。そういう意味でようちゃんにはまだまだ、拘束があったのです。