ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔227〕やがてそのスナックを目掛けて来る顧客達の一番の楽しみはカラオケだという真相に気が付くのです。ようちゃんは意外にも古い歌を愛していたのです。その古さが恥ずかしくて自分にピッタリ来る楽曲はなんだ?って。やがて顧客達が最も愛する曲がおいおい、解って来るのです。ねえ、俺と歌ってくれない?いいかなあ?若い男性に限らず壮年者もこの曲をデュエットしたがり、みっちゃんという丸顔で小柄で眼の大きな女性が大好きな曲で、カウンター内にいる彼女を、羨望の眼差しでようちゃんは見つめるのです。みっちゃんのように小顔に生まれたかった。しかも、みちずれを歌う時に、みっちゃんの目は心なしか潤むのです。顧客達は誰もが彼女と一緒に歌いたがって、人の美以前にある処の鑑賞性にようちゃんはたじろぐのです。みっちゃんにはそれなりの歌唱力もあったけど、決してダントップの歌唱力ではなかった。しかし人々の心を魅了するには十分で、ようちゃんは顧客をどうやって手懐けて行くのか?この戦略が自分には皆無なことにドキっとする。古参の綾子さんも得意な歌があって岩壁の母。この歌を聞くまで帰れないっていう馴染み客もいたのです。