サファイア・マン《かけがいのない男編》〔143〕どう考えても一千万円も貯蓄しているような旦那と住んで共益費を支払う妻が、自分の中で納得出来ないし消化も出来ず、それはしかし誰にも相談出来ないことだったのです。彼は自分が二人の子持ちでも結婚してくれた命の恩人にも等しいことをネックにして、キャロルが隠しガネを持って嫁にきていたと踏んだのです。それを匂わすようなニュアンスも嗅ぎ取れて、ある日、こう言って来たのです。スナックやクラブに勤める女性たちの貯蓄力は並大抵ではなく、ほぼ全員がその日暮らしではなく、かつかつではなく、計画的に貯蓄している傾向にあるといえないか?って。彼もそういう顧客層を多く見てきた。中洲が彼の仕事場だったからです。多くの経営者を見てきて、三代目は常に一代目よりも劣るという論調を崩さず、なぜそうなるか?というとハングリー精神や先見性に於いて昔の人々の方が的を射ていたとそういうのです。そしてそこで働く従業員たちも日々散財するのではなく将来を見据え計画的に貯蓄する傾向だと示唆してきて、それは、はからずも、あなたももちろん貯めていますよね?とイエスの答えを催促されているようで、怖かったのです。最初から一文無しなのよ!って言えばよかったものをメンツが邪魔してしまったのです。