ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔142〕そのラストチャンスというダンスラウンジで、カウンターに座ってキャロルはアイスコーヒーを注文します。当時はレイコと言ってました。自分の演奏に感想を入れてくれそうな気がしたし、いつもグラスを白い布でピカピカ磨くその若いボーイが同じ触覚を持っていることに気が付いていたのです。もっと違う所作で入ればいいのに?っていう思いがキャロルに届いていたのです。自分の悩みを打ち明けます。それが選曲にあったのはいえるし、彼は寡黙でとうとう何もアドバイスはしないのです。自分が口を挟める状況にはないといった若者なりの判断で、いかにバンマスに力があるかを垣間見た〔ベンジャミン〕シーンで、ラウンジでの静かな楽曲を弾いてイメージチェンジに掛かる使命をキャロル自身が受け持っていて、ソウルダンスで汗をかいた観客たちのこころを一気に鎮めるそういう作用を担っているのはもちろん、別の示唆もキャロルには入っていたのです。自分のオリジナルを弾くもってこいのチャンスが来ていたのです。それを黙って弾くのは勇気の範疇でしたがみんなは既存に世間に出回っている楽曲だと思っていたようです。どこかで安心感が漲ります、自分の楽曲は通用するんだ・・・という驚愕なんですね。