ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔86〕もしもあの事件を引き起こすことがなければあのアパートにずっと暮らしたのかも?それはあったでしょう。今もチトセピアの前を走行するときには懐かしさで一杯になるし、停める場所を確保してあの喫茶店にも足を運びたいなあって。実は長与の方で陶器を焼き、店にそれを置き夫婦で営業されているお店があって、六年前に立ち寄り何回かひとりで行きました。自家製ソーセージ、チーズなんかも美味しかったです。純心幼稚園を去るときには、ひとりひとりと握手して、先生に抱きしめられたことを覚えています。十字架の首飾りを頂き、それを大事に持ってはいるのですが、また急におしっこをしたくなるんですね・・・やれやれといった表情の母は緊張していたのでしょう。みんなと別れたあとでよかったと胸を撫で下ろし、草むらに連れて行きます。十字架の入った箱が少し濡れてしまいます。母はもう開き直ったかのように何も言いません。母はこの時から教育方針を180度転換したのでしょう。矯正することの難しい紅一点女児は母に叱られることを畏れて、おしっこを箱に少しだけつけてしまったことを申告しますが、母にはあの怒号が耳から離れません。新聞社に通報してこういう事件ははっきりさせるべきだ!というアパート住民の声でした。そんなことにならずに、ひとまずよかった、救われたんだと。箱の中のロザリオはキャロルのこころを惹き付けとうとう眠れない一夜を過ごしたのでした。