ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔75〕キャロルにとっての平穏無事は中々訪れず、毎日毎日父は激しい暴力を受けていました。母はそれを見せることによって、キャロルに何が伝わるかを試しているかのように、時々こっちを見るのです。キャロルはわんわん泣くことで、母を制止出来るかも?と泣いてみても効果はありません。小さいときにほんの10秒くらいですが、母の両手の平で、キャロルは口を塞がれたことがあって、その記憶は今でも忘れません。本当は母は母になど、なれない人だったかもしれません。それなのに母はおろか、教壇に立っていたのです。母のこころの闇は自分しか解明出来ないのでは?もしそうなら、あのときに、父に呼ばれて、キャロルの口を塞いでいた手をパッと除けて、後から走り寄ってきた母の目に、ごめんなさい、ごめんなさいという語りかけがあったこと、涙が浮かんでいたことも忘れないのです。女性には表に表れていない狂気があるのです。そしてその狂気はふだんは音もたてずにまるで霊のようにかしこまっているけど、それが爆発するときには、天地鳴動のことをして世間をアッと言わせるのだろう・・・と。キャロルは母が西浦上小学校に転勤になり、近くなって良かったね?という父の言葉に頷き、優しい面影を一瞬見せた母の別の一面を忘れないし、父も性格上のしつこさがあって、それが母を怒り狂わせたという夫婦の定型たる、こだまがあったのかなあって。それぞれの夫婦にはおのおの形や音律があるのです。