サファイア・マン《緻密な男編》〔14〕弟が初めて床屋に行って髪を切るというときに、キャロルも同伴します。不安に駆られた母には少しだけわかっていたことがありました。精神的に弟がシャイなことです。髪を切るときに暴れるのでは?そのハサミに強く反応するのでは?と、さすがは母です。心〔しん〕の臓にもしや毛が生えているのでは?という姉のキャロルに対して弟は敏感過ぎた。このイノセントが起こす反乱を母は予測しキャロル同伴を言ってきました。入江という床屋さんで、弟は思った通り、激しく抵抗して、髪を触らせません。理容師が近寄ろうとしてもダメ。諦めがつかない母の様子を見かね女性店主が人形を与えます。僕僕~このお人形どうかしら?お友達になりたいってよ?弟は受け取り暫く観ています。そして気に入ったのでしょう。店主は見事な手さばきでその合間を縫って、話しかけつつ髪をカットします。キャロルはびっくりします。人間にはそれぞれ対処の仕方があるんだなあって。当時の18銀行のマスコット人形で、帰り際プレゼントされます。良かったら、これは僕が持って帰って!!今日の記念にあげる!!って。弟は喜び勇んで泣いたことなどすっかり忘れていました。家に帰って、あんた、ハサミが怖かった?それとも知らない人が怖かったのか?って尋ねたら、う~ん、どっちも怖かった、って答えるんですよね。母の思いはわかります。兄弟でも全然違う感性を保有して生まれてくるんですもの。我が家も姉、妹、そして3兄弟いますが、五人とも違う・・・。京の五色豆のように個性豊かな色合いなんですよ。