サファイア・マン《面白い男編》〔8〕その父の居る場所に中々、寄れなくなったのには、ワケがある。どうしても寄れなくて・・・。言い出すのがとても怖い。でもこれは父の為に、そして、この和田家を女手ひとつで、切り盛りして、なんとか家の実存に尽力したタヤの為・・・。どんなに弟が売ろうとしても父の家は売れなくなっている。それは元バンカーである夫の意見もくみしました。家を売ってお金が無くなれば、絶対に働くとはいうけれど、家があればまず、家賃がいらない。固定資産税とそれから、若干、区画整理で坪数が増した分だけ、分与金が生じていて、残があるのです。以前は35坪が50になった。土地を売るとなればそれらは後引きでしょう。そこまでしてあの家に拘るのは、女手ひとつで子供たちをイッパシにしたタヤの踏ん張りと母を文句ひとつ言わず、迎えたことにあります。キャロルが六歳になる二ヶ月前に弟は生まれるものの、タヤは抱かせてはもらっていません。母は、戦時中のいけない教育方針が子供たちに移ってはいけないと、いいものまで闇に葬ったのです。お墓まで売るのも圏内という発言はキャロルをびびらせました。お墓はもとより、家も売ってはいけない!と強く思ったし、進展はあのときです。父のバースデイ時に我が家で預かっていた一ヶ月。この時期に動きました。お墓のこともその一年前に売れないように文書を交わしていたのです。お墓の土地の持ち主との間で。弟にはどうも刹那主義があってあとは何とかなるだろう・・・という処のヒーロー論が強固です。例えば、古物商を呼んで調べたが二束三文だった・・・っていう。タヤが有名人でないからって言う。そういう言動そのものが姉として哀しい性〔さが〕に映るんですね。