エメラルド・ウーマン《深窓の令嬢ダブリュー編》〔67〕どんどん各国が徴兵制を言い出して来たその頃、自分の身を自分で守るスベはまだなく、国のトップの考え方を基準にすべてを受け容れないといけないことは情けなく、そういう所作に断じて出るまいと里子は思うのです。しかし自分には仲間がいない、これ以上ない程の孤独にさいなまされ、しかしあの時のネカフェでの男女の罵声が耳元から消えず、言葉は解らないのに、なぜ、ある程度、争いの核心を自分が掴めたかが不思議だったのです。女性はフィリピン人だった感じもします。片言の日本語も聞こえていたからです。こんなとこ嫌だ!!を言っていたのが聞こえたのです。女が出て行き、男も必死で追い駆けて行く。のっぴきならない修羅場がドアの向こうで繰り広げられてはいたものの、その日から鍵付きの部屋に移動していたことが安心に繋がっていたのです。ドアミラーこそないものの、中からしっかり鍵をかけられ、しかも外出時にも鍵をかけられるこの部屋が里子を少しだけ安堵に導いた実績を思うのです。自分でも人には優しく!!っていつも言っておきながら、こういう騒動に巻き込まれるのは御免チャイで複雑怪奇だったのです。この階には支配人みたいな人もいない、だからこそ自己責任フロアだったのです。