エメラルド・ウーマン《深窓の令嬢ダブリュー編》〔63〕魅惑の町、西友のすぐ近隣にあった井原をバスに乗って目指します。自分は今、どれくらいの緯度にいるのかなあって、地球での東経と北緯を知りたくなります。埼玉まで来て無しの礫では帰れない。窓の外を何気なく見つめていると人々の列が見えます。よく観察するとタオルを肩に掛けたり洗面器を持っている町の人が見えるのです。銭湯のようで、里子は郷愁に包まれます。すぐに下車してでも入りたい衝動に駆られるものの、タオル位は持参してないと無駄使いになると自制します。風呂屋の名前に感動します。なんという出で立ち......登竜の湯とあるのです。ここの風呂屋にもしも入浴出来たなら、或いは苦難を克服したことになりはしまいか?いいえ、大袈裟でもなんでもなく、悩みや忸怩たる思いこそが庶民の十八番。これがもしも払拭されるのなら?里子は登竜門という三文字を類推し思い浮かべていたのです。どの分野にもある登竜門。そこをくぐり抜けられたら人生が笑まみれになって賞も、勝も頂ける。しかし悲しいかな庶民にはそういう栄誉は中々やっては来ない、縁そのものがない。この風呂屋はそういったもどかしさをすべて打ち破っている!!