ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔202〕美知がいきなり居なくなって階下に棲む家族がしんみりなっているのを感触として受け止めしかし、その時京都に行ったことがまだその頃のキャロルにはわかりません。美知は突発的にどこかへ出掛けてそのまま帰って来ないという強硬路線を敷いていることはわかります。なぜならピシャっと撥ね退けることの出来るような意思強固な女性でもあり皆が一目置いてもいたからです。誰かさんと誰かさんがくっついた・・というような世間の噂話など興味もなく母のように一日をテレビの前で過ごす女性でもなくしかし・・・観たことがないのが畑仕事に行く美知・・・。きっとタヤは体の弱い美知が、末っ子の美知が誰よりも可愛かったのでしょう。原爆で誰もが人のことを気遣う余裕もなかったのにタヤはこのあと、昭和二十年、三月に父の復員兵としての帰還も味わうのです。嬉しかったタヤはその気持ちを素直に周囲に言うのですが、それがどんなに嫌だった人もいたかと思うと胸が張り裂けそうです。父の同級生で、54名中生き残ったのが、23名だったと聞きました。どれくらい多くの人々が戦争で亡くなったかを思うと八月の蝉の声が彼らの声のように思えてならずじっと聞き入るのです。生きている者にはおのおの使命があって当然なのです。