サファイア・マン《かけがいのない男編》〔130〕西暦1988年代。ニッポンはバブルで弾けんばかりの上昇気流が吹き荒れ、シゲルちゃんの勤務する銀行も正に最高高値を弾き出すという処まで、昇りつめようとしていたのです。しかしキャロルの目指すところは株価ではありません。キャロルが見ているのは人々の所作です。自分がこんな吹き溜まりに来てしまったことを嘆いていても人生は開錠もしないし、むしろ母の果敢さを思うのです。何もいわず示唆を与えて帰路についたのです。例えば・・・ああしなさい、こうしなさいが母には全く無くそれはキャロルが幼児期に事件を起こしたことも起因していて、この子は人からいわれたから良くなるといった性向にはないことを知っていたのかもしれません。自分の内奥において受け止め成長していく・・・しかしこの世間とのズレがどんどん自分を暗い方向へと持っていきそうで、実は怖かったのです。彼の本心にあったのは家族を報告する時期を逃してしまい、もう報告をしないで置くことも視野にあって、そのことがキャロルを叩き付けていました。人間としての尊厳です。そこをないがしろにされているように思えてならなかった。なぜ、銀行の寮に入って他の奥様たちとワイワイが出来ない?どんどん孤独になっていくのを止める必要があったのです。