サファイア・マン《緻密な男編》〔129〕この二週間以上母が違った環境に置かれてどんなに自分の家が恋しくなったか、どんな田舎の掘っ立て小屋であってもどんなに自分の家が落ち着くか・・・母は入学式を終えて長男の手を引き家に帰り着いたとき、そのまま座り込むのではないかと疲れを露にします。長男に白のシャツと紺色の半ズボン、そしてニットの白いセーターを着せてという出で立ちで、母は普通の洋服でした。長男にVニックの白いセーターを新調させて、そのお気に入りのセーターをまず、しばらく脱がないだろうな!ってキャロルは思います。黒い線がVネックに入っていてとても清潔感があったのです。しかし母は搾り出すような口調で、実は席も名簿もなかったのよ・・・と呟くのです。そ、そんな馬鹿な。転入届けのときにちゃんと・・・いや、待てよ。学事課を通っていればこんな惨事は起きずキャロルはその日を茫然として過ごすのです。しかし長男、ことの真相によく気が付いてはおらず、即席をこしらえていろいろ対応してくれた先生たちの慌てた様子に子供ながら得る処もあったのでしょう。ケロっとしてこう言うのです。椅子がなくても大丈夫だった、心配ないって。母にはキャロルの天然とはもはや言えない抜け落ちが信じられません。それでも夕餉の時間は押し寄せてくるのです。