ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔142〕今思えばT先生はキャロルの面倒観のいい性格を見越して、自分が手の届かない部分を旺盛な挑戦欲でキャロルの個性をいろいろ発掘しに掛かったとみていいでしょう。この先生がもしもいなければキャロルは自分の本当の性格や多彩には気が付けないでいたかもしれない。当時そういった下校のことを学級委員にやらせることは常套あって特にこういった田舎の学校ではむしろいいこととしてあったのです。キャロルが物を言うことが達者で危険が少ないこともあったでしょう。しかし担任が見抜いていたことは、この子が体育が出来ればもう言うことはない!という観点で、マット運動で手厳しく述べたのも、口を酸っぱくして怒ったのもそれがあったからでしょう。当時、牛乳瓶の底みたいなメガネという言葉が流行っていて、勉強が出来るは、即、眼鏡だったのです。そういう偏見と風評の雄雄しい時代を懐かしみ、キャロルをある器具が虜にしてしまうんです。ストップウォッチです。和田さん、みんなのタイムを計りたいから加勢して!って。そのラインに走り込んで来たら押さないといけません。キャロルは自分が十秒台だからくやしくてたまりませんが、まさか遅めに押すことなど出来ない、そういったジレンマに襲われるのです。自分もどうにかして十秒を切りたい!とそれからはなお強く思うんですね・・・。