ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔134〕誰もが思う教育の機会とはちょっと違う貴重な経験をキャロルは積んでいる実感がありました。自分を投入するのは文学や音楽の世界だ!という観念でその頃はまだ小説をしたためたり作曲を試みたり、演奏して場数を踏むことこそが自身の成長段階だと思いますが、この少女を見て、ゴキブリが這い回るあの部屋を見て、突如湧いてきたのは最悪現場思考です。最悪をこの目で見て、社会の暗部や奥底を知ることは公算として、芸術的にも高い評価をうるものだということを暗算します。あの少女の母親が金持ちと結婚したからと言って状況が良くなるはずもなく何もかも経済で計るニッポンの大臣のようなことをキャロルははなから考えませんでした。むしろ・・・彼女達のひとりになって、自分が独楽鼠のように這い回る人生こそに美味があるとそう思ったのです。恐らく反発はあるでしょう。少女の母たる彼女がまずキャロルへ向ってこう放つことでしょう。あなたはホンモノの苦労なんて味わったことがない無傷の女性・・・そんなあなたの人生をもしも知り得たとしても何も変わらないって。それでもいいと思うのです。全女性の反発を背負ってもキャロルは平気です。なぜなら女性陣のその反発こそが時代が保有するマグマでもあるからです。女性という人類屈指の感性深い生き物を、冷静かつ客観的に見つめられるのは還暦を迎えるからでしょう。