ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔130〕今日はお風呂にでもイッコかなあって張り切っているんです。食費には四百円っていう縛りあるけど水分が未曾有。一杯とって構わないんです。キャロルはやっぱり母のお蔭なんだなあって。大きな銭湯に連れていってくれたのが母なんです。戦後最初のマンションとはいえ、風呂はなくシャワーもない。みんなが通った銭湯だけでは母は物足りなかったのでしょう。遠い場所では浜の町まで遠征して母は連れていってくれた。涙が出そうになるのは井の中の蛙になっちゃいけないんだよ?ってそういう意味があったんじゃないかな。そりゃあ清潔になるだけなら近場でよかった訳で、母は人生に最も大事なみっつをキャロルに教えてくれた。それは・・・息抜きすること、お湯の中で目いっぱい背伸びすること、そしてより大きな風呂屋があるんだ!っていう天外思想。女の子であってもこういう教育、しかも相手が後になってみずから気が付くという壮大なロマンにキャロルは怖気付きそうなるんです。自分よりも立派な母がなんであんな逆境に堕ちなければいけなかったか?弟に全財産を使われてしまった。しかしあの時、キャロルが助けの手を差し伸べることは不可能に近かった。父も健在、弟も傍にいたからですね。父も最期まで戦った相手は何を隠そう、弟だった。綺麗ごとは言いません。はっきりしないと何も見えてこないからです。