結婚を四十二歳でようやく手に入れた俺のそれまでの人生は仕事人間。いわば企業戦士だった。俺は月曜日、他のみんなの誰よりもやる気満々の自分を自負する。他のみんながやたら小さく見えるし、俺は自分の視野を朝からコテンパンに磨く。出来ない連中がやってくる頃にはそれぞれに対して週の目標を設定、それに向って猛進することを確認させる。しかし俺が開眼していても始らない。出来ないニンゲンたちは俺よりも上の学歴を持っているにも関わらず出来ないのだ。それを観るにつけ、俺は可不思議な幻想に陥らざるをえなかった。学歴社会の落とし穴だ。それにひょいひょい乗っかってきたニンゲンの見えない危うさを観てきたからこそ、俺は両極端を見極めるという技が身に付く。学歴社会の持つ未曾有の戦慄の部分だ。俺は学歴がない高卒という身分で様々な社会の強豪とサシで勝負してきたが、負けたときには素直に完敗を宣言。そうなることもしばしばあった。世間という大海原にはバンカーが会った事もない人物が悠々と存在するものである。