サファイア・マン《緻密な男編》〔35〕乙姫部長は田村亮さんをさらに小顔にしたようなハンサムな風貌で、クラブ勤めがもったいないと思えるくらいにインテリ力がありました。言葉に端々に洗練された何かが・・・。源氏名をどうしますか?と問い掛けられ、キャロルはマックスロードで名乗っていた明美をすぐさま答えます。部長はじっと空間を見ながら、それよりもいい名前があります。ええ?名前にも意味があるんですか?僕がパッと貴女を見て浮かんだのは、あゆみですが、いかがでしょうか?あゆみ・・・もちろんそれに異存はありません。キャロルがその名前が何を意味し意図していたのかその時には知るよしもありません。六時半から、十二時までの勤務で、当時日給は七千円でした。まだ、クラブにおける接待経験は皆無でしたから、高すぎるとさえ思えました。明瞭だったのは付けの説明でした。もしも自分の顧客が付けて、支払い不能の場合、三ヶ月猶予期間を過ぎたら、貴女の給料引き去りになります・・・と。キャロルは自分には関係ないとすら思いました。顧客を持っていなかったからです。ヘルプで付くことが、ほぼ一年は続行だろう・・・と高を括っていた。まさかの事態が待っていることなど、キャロルことあゆみには想定不可能でした。乙姫部長はこの時に、キャロルは売れっ子になることをもう見ていたのかもしれません。それは・・・磐石な売れっ子で、常に七位以内、しかもマジメで毎月皆勤賞を奪取するような地道でいて華のあるホステスだったのです。