ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔80〕ヨッキちゃんには特別な感性がありました。それは、子供の頃からすでに発露はあって、夕日に感動したり、釣りにいっても自分の世界との対比を貫いたり・・・。しかし花鳥風月に感動する一方で、男の無頼派でもあったのです。他の四人とは同じ屋根の下では育たなかった。ヨッキちゃんは次男。そして二人弟がいて、末っ子がキャロルのふたりいる女の従弟のひとり。ヨッキちゃんの研ぎ澄まされた感性はセールスの世界で揉まれたといっても過言ではなく、自分の棲む家の前の車・・・気になってしかたない。父に懇願しているのを何回か小学校時代キャロルは耳にしています。是非一度、お下〔電話もないキャロルの家、この大きな家を取次ぎに頼んでいた、オシタと呼んでた、キャロルのピアノの先生の家〕のご主人紹介してもらえんかな?父は、わかったよ、いつかね?といい加減な回答をいつもしていたんですが、この紹介なんですよね?ヨッキちゃんは、トヨペットで、どんな教えを学んだのでしょう。紹介さえスムーズにあれば、俺の仕事は順風なのに・・・。きっとそう思ったに違いありません。父はヨッキちゃんにいわば、冷たかった。姉の次男になるのに、しかも自分が復員したことで、相当の傷を負わせているのに、その認識には見劣りが感じられました。キャロルはその頃まだ、自分が脇田大佐の孫などということ知りません。母が、中2まで、隠していた。あの打ち明けたときの母からして、言わずに済めば、知らせることさえ免れたかった、そういう感じはしました。